うぐいす 3

学園シリーズ第三弾！とりあえず真田がかわいそうで雅がひどいです．でも雅はそんなヒロインです（ぇ）

「用も無いのに女子寮へ来るなどたるんどるっ！」

「だから誤解ですって！」

　女子寮の入口ではちょっとした人だかりができていた．ドアのところの騒ぎで通行できなくなっているらしい．

「あの，幸村さんたち呼んで来ますか？」

「幸に止めてもらうのも面白いわね．でも今回は私で十分」

　聞こえてくる声が男子のものなので心配したのだろうが，そこで幸村を呼ぼうとするリナの天然は恐ろしい．呼んだ場合の展開を予想して雅の口元に笑みが浮かぶ．

「ちょっとごめんね．通してくれる？」

「女子生徒にへらへらと声をかけおって！だいたい普段からお前は…」

「うるさい」

　ごん，という鈍い音とともに真田の長身が横に飛ばされて落下した．雅は表情一つ変えず蹴り飛ばした脚を静かに下ろす．

「雅先輩！助かった～」

「どういたしまして．少しこっちに寄ってくれる？」

「了解っす」

　ドアを塞ぐ位置に立っていた赤也は素直に真田が落ちている方へ移動する．起き上がろうとした真田は雅を視界にいれて固まった．

「さて，これはどういうことかしら」

「真田副部長の引率からはぐれた女子を案内してきたら怒鳴られて…酷いっすよね？」

　しょげたような表情で赤也が訴えかける．雅はそんな赤也に柔らかく微笑み，直後に背筋が凍るほどの冷笑を真田へ向ける．

「何か補足することは？」

「俺はただ…」

「あら，言い訳するの？」

　発言を求めておいて即座に黙らせるあたり雅の酷さが伺える．しかしこの場に彼女を止められる人間は存在しない．

「雅さん，今のうちに荷物取ってきた方がいいですか？」

「そうだ，あんたに構ってる場合じゃなかった．赤也くん，幸に報告しといてほしいんだけど頼める？」

「へーい」

　リナの申し出に本来の目的を思い出したらしい．幸村の名前を聞いてさらに固まる真田を引き起こして長身を見上げる．

「真田もちゃんと説明してね．自分の早とちりで赤也くんを怒鳴りつけて騒ぎを起こして私の邪魔をしましたって」

「待て，最後のは確実に言いがかりだろう」

　大人しく頷いていればいいのに反論してしまうのは彼の性格ゆえだろう．案の定ネクタイを容赦なく引っ張られている．

「言いがかりかどうかは幸に判断してもらいなさい．じゃあ後でね」

　最後に楽しそうな笑顔を残して雅はリナと女子寮へ入って行った．

「大丈夫ですか？真田副部長」

「どうして俺ばかりこんなめに…」

　中学生の頃から鉄拳制裁で恐れられてきた真田だが，雅に勝てたことは一度もない．というより彼女に勝てる人間など存在しないに等しい．

「俺も気になったんで，聞いてみたら“真田は頭が固くてうるさいからね”って」

「それが理由か…？」

「らしいっすよ．ちなみに言ってたのは幸村部長ですけど」

　赤也の何気ない一言に対する返事はなかった．真田はとどめを刺されたようだ．

 

「さっきの２人は生徒会の人なんですか？」

「ううん，髪の毛がくるんってなってた子はテニス部エース切原赤也．うるさい帽子は風紀委員の真田弦一郎」

「あれ？でも幸村さんの知り合いなんですよね」

「幸と真田はテニス部の部長と副部長なの．なんか中学の頃は真田が仕切ってたらしくて無駄に偉そうなのよね．まぁ幸には逆らえないみたいだけど」

「そうなんですか」

「真田なんか気にしなくても，赤也くんを覚えてあげれば問題ないから」

「そうなんですか…？」

　あくまで普通の性格をしているリナの疑問は軽く受け流された．