Katze's Spuren
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愛おしき共犯者 02
謙也の教会に帰ってきた光.前半は謙也の語りかな?
孤児院に隣接した教会.子たちが遊ぶ声が少し響くだけの空間で,謙也はいつも祈っていた.
「神父様はいつも何を祈っているんですか?」
声をかけてきたのは孤児院で最年長の女の子.もうすぐ高校生になる彼女は子供たちの面倒をよく見てくれる.
「うーん,なんやろなぁ」
「えぇ?もう,謙也くんは神父様になっても変わらないんだね」
「あははっ.俺が神父とか柄やないし,しゃーないやん」
以前,この教会で神父をしていた男性は逃げてきた謙也たちを何も聞かず受け入れてくれた.
謙也は彼の後を引き継いだだけで,同じ孤児院で生活していた子供たちからは兄として認識されている.
「そうでもないよ?謙也くんには人を安心させる力があるから」
「おおきに.ほら,チビが呼んどるし行ったって」
謙也がそう促せば女の子は優しい笑顔で子供たちの方へ駆けて行った.
はぐらかされたと気付かない純粋さに,自分の影が浮き彫りにされて苦しくなる.
「神様は,何も救ってくれへんよ」
もし本当に神様がいたとして,あの日の悲劇を見過ごすような存在が誰かを救うとは思えない.
救いたい.救われたい.けれど,今の自分は何から救われたいのだろう.
「ん?」
ぼんやりと考えていた謙也は,ふと人の気配を感じて振り返った.入り口横に並んだ扉を見ると明りがついている.
「あぁ,誰か来たんか」
教会には懺悔室が設置されている.めったに利用者はいないが,やってきた人の悩みを静かに聞くのが謙也の仕事だ.
いつも通り,真ん中の扉を開けて中に入る.隣との間にある壁には少し低い窓がついていて,覗きこまなければ相手の顔を知ることはできない.
「神の御心を信じて,あなたの罪を…」
「父親の目の前で娘を殺して,命乞い始めたところで父親も殺しました.
二度も家族を殺されて,まだ生きたいもんなんですかね?」
「光!」
決まり文句を言い終わる前に告げられた残酷な報告.その内容と聞きなれた声に謙也は思わず相手の顔を覗き込む.
「ただいま,謙也さん.手伝ってくれて助かりましたわ.
こっちで回線繋いで,逆探知かく乱させたんです.あ,特定はできんようにしてあるし心配ないっすよ」
「そんなん,言いに来んなや…っ」
なんとかそれだけ告げて,謙也は逃げるように懺悔室を出た.財前は計画を終えた後,必ずこうしてやってくる.
意味もわからず,けれど逆らうこともできずに押したスイッチ.その役割を教えられるたびに罪の意識が謙也を襲う.
「どないしたん?謙也さん」
「なんで,わざわざ来んねん.用があるんやったら光の部屋でえぇやんか」
「謙也さんが誘ってくるとか珍しいっすね.そんなに寂しかったん?」
優しげに微笑む財前.しかし,優しさからそんな表情をしているわけではない.外と内の温度差を知っている謙也の表情が哀しげに歪むのを見たいだけなのだ.
「なぁ光,もうやめよ?もうえぇやん.こんなんしても…」
「やめませんよ.俺もアンタも,絶対に」
共犯者であることを刻みつけるように告げる.ますます表情を歪めて,それでも彼は財前の言葉を否定できない.
「ねぇ,謙也さん.守るもんがなかったら迷わんの?」
「え…?」
いつの間にか謙也から視線を外して,財前が見ていたのは外で遊ぶ子供たちだった.一瞬何を言われているかわからず,けれどその意味を理解して謙也は青ざめる.
「光っ!!!」
「冗談ですよ.俺は謙也さんが手伝ってくれたらそれでえぇんですから」
財前はくだらないとでも言うように肩をすくめて子供たちの方へ歩いて行った.教会から出てきた光を見つけた子供たちは嬉しそうに駆け寄っている.
「謙也さん.そんなとこで突っ立っとらんと一緒に遊びましょ?」
彼が子供たちに向ける笑顔に嘘はない.謙也と同じく兄として慕ってくれる子供たちを彼なりに可愛がっているのも事実だ.
けれど,それは謙也を介して存在する情にすぎない.謙也が大切にしているから.自分がいない間,何の下心もなく謙也の傍にいてくれるから.そして,謙也にとっての唯一は財前だから.
「…すぐ,行くわ」
言われるままに,謙也は彼の隣へと足を向けた.